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岡山地方裁判所 平成3年(ワ)432号 判決 1994年4月28日

原告

向井進

原告

太田一志

原告ら訴訟代理人弁護士

寺田熊雄

奥津亘

佐々木齊

大石和昭

被告

内山工業株式会社

右代表者代表取締役

内山幸三

右訴訟代理人弁護士

香山忠志

近藤弦之介

山崎武徳

主文

原告らが被告の従業員の地位を有することを確認する。

被告は、平成三年一月から毎月二八日限り、原告向井進に対して金三〇万〇三八四円の割合による金員を、原告太田一志に対して金三〇万七一八〇円の割合による金員をそれぞれ支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決第二項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

主文第一ないし第三項と同旨

第二項について仮執行宣言

二  被告

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  雇用

被告は、工業用ゴム製品、合成樹脂製品等を製造販売する会社であり、原告向井は昭和四五年四月、原告太田は昭和四七年四月、それぞれ被告会社に従業員として雇用されたものである。

2  賃金

被告会社の従業員に対する賃金は、毎月二〇日締めの二八日支給の扱いがなされていた。

平成二年一二月二二日当時、被告会社から得ていた月額平均賃金額は、原告向井が三〇万〇三八四円、原告太田が三〇万七一八〇円である。

3  懲戒解雇通知

被告会社は、平成二年一二月二二日、原告らに対し、左記事由を掲げて、就業規則六七条による懲戒解雇処分として、同規則五九条により同日付で解雇する旨通知した。

<1> 事実の概要

原告向井は全国化学内山工業労働組合(以下「内山労組」という)の執行委員長、原告太田は同労組書記長として、同労組の組合員である被告会社の岡山第一工場、岡山第二工場、邑久工場、本社に勤務する従業員に対して、平成二年三月二一日、一〇月一〇日、一一月二三日の振替出勤日に欠勤するよう企画し、決定し、指導して、組合員である従業員を欠勤させ、自らも率先して欠勤し、被告会社に対して生産面では推定約四二〇〇万円、さらに労務の提供をなさずして賃金を支払っている面での損害約四八〇万円という多大の損害を与えた。

<2> 就業規則違反条項

就業規則五条、六条本文、一号、二号、三四条一項、二項

<3> 懲戒該当条項

就業規則六八条七号、一二号、一六号

4  係争

被告会社は、原告らに対し、前項のとおり懲戒解雇したと称して、雇用関係の存在を争い、平成三年一月二八日支給分以降の賃金の支払をしない。

5  結論

よって、原告らは、被告会社の従業員の地位を有することの確認を求め、被告に対し、平成三年一月から毎月二八日限り、原告向井は金三〇万〇三八四円の割合による平均賃金、原告太田は金三〇万七一八〇円の各割合による平均賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  欠勤及びその煽動

被告会社は、平成元年一二月下旬、平成二年度の年間の休日の割振りについて、別紙一(略)のとおりとする旨決定し、従業員に対し、その旨記載した年間カレンダー(以下「内山カレンダー」という)を配布して通知した。

右内山カレンダーでは、祝祭休日である三月二一日水(春分の日)を同月二四日土に、五月三日木(憲法記念日)を同月一九日土に、同月四日金(国民の休日)を同月二六日に、一〇月一〇日水(体育の日)を同月一三日土に、一一月二三日金(勤労感謝の日)を同月二四日土にそれぞれ振替変更する旨記載されていた。

原告向井は内山労組の執行委員長、原告太田は同労組書記長であるが、被告会社通告の平成二年の内山カレンダーによる休日振替変更のうち、三月二一日水を同月二四日土に、一〇月一〇日水を同月一三日土に、一一月二三日金を同月二四日土にそれぞれ振替変更することには応じられないなどと主張し、同労組組合員である被告会社の岡山第一工場、岡山第二工場、邑久工場、本社に勤務する従業員に対し、被告会社が定めた平成二年三月二一日、一〇月一〇日、一一月二三日の振替出勤日に欠勤するよう企画し、決定し、指導して、同労組組合員である従業員を欠勤させ、自らも率先して欠勤し、被告会社に対して生産面では推定約四二〇〇万円、さらに労務の提供をなさずして賃金を支払っている面での損害約四八〇万円という多大の損害を与えた。

2  休日振替の正当性

<1> 労使慣行

被告会社においては、昭和四九年以来、週休二日制の推進、経営効率の向上、自動車関連企業としての他企業との連携の必要、交替勤務者の勤務都合等から、極力週途中の祝祭休日を週末に振り替え、祝祭休日に出勤して週末を休むという方針をとり、前年末頃に、まず被告会社が翌一年分の休日の割振りをし、週途中の祝祭休日を振替変更した上で、労働組合に対して会社案として提示し、その意見を聞いた上で、被告会社が最終決定をし、内山カレンダーを作成するという慣行が労使間に定着しており、平成二年の内山カレンダーまで、過去被告会社の決定に労働組合が異議を唱え、あるいは従業員が反対したことはなく、右内山カレンダーに対する原告らの反抗は、右労使慣行に反する行為である。

<2> 就業規則

a 規定

平成二年当時、被告会社の就業規則には、休日及びその振替に関し、次のとおりの定めがあった。

二〇条(休日)

一項 休日は次のとおりとしその日数は年間一〇三日とする。

一号 定休日 毎週日曜日

但し、三交替制連続操業の部署に於いては、別に定めるところにより、一週一日の休日を個人別に特定して与える。

二号 特定休日

年末年始(一二月三〇日、三一日、一月一日、二日、三日、四日)

成人の日(一月一五日)

建国記念日(二月一一日)

春分の日(三月 日)

天皇誕生日(四月二九日)

労働祭(五月一日)

憲法記念日(五月三日)

子供の日(五月五日)

七月最終土曜日

夏期休暇(八月一四、一五日)

敬老の日(九月一五日)

秋分の日(九月 (ママ)日)

体育の日(一〇月一〇日)

文化の日(一一月三日)

勤労感謝の日(一一月二三日)

三号 その他事業場単位で定めた日

二項 前項の休日のうち国民の祝日及び日曜日と重なったときは翌日を休日とする。

二一条(休日振替)

一項 会社は、業務の都合その他やむを得ない事由によって臨時に必要がある場合は、前条の休日を他の日に振替変更することがある。

二項 前項の場合は、前日までに振替変更による休日を指定して従業員に通知する。

b 該当事由

被告会社は、週休二日制の推進、経営効率の向上、自動車関連企業としての他企業との連携の必要、交替勤務者の勤務都合等から、平成二年の内山カレンダー記載の休日振替を決定したものであるから、右は就業規則二一条一項の「業務の都合がある場合」に該当し、また、被告会社は、内山労組から、平成二年三月一六日に至り、突如として同労組組合員が振替出勤日である同月二一日を休み、振替休日である同月二四日に出勤する旨の通知を受けたが、同労組組合員のみが他の従業員と分離して休み、又は出勤することになると、職場は混乱し、業務運営が著しく阻害され、生産効率の低下、工程の分断等が生じるので、被告会社は、この事態を回避するため、同労組組合員に対し、事前に再度内山カレンダーによる休日振替を通知したもので、このような突然の分離欠勤ないし分離出勤という事態の発生は、同条項の「臨時に必要がある場合」に該当するものというべきである。この点は、一〇月一〇日、一一月二三日の休日振替についても同様というべきである。

<3> 従業員の同意

被告会社は、平成元年一二月二八日、従業員らに対し、平成二年の内山カレンダーを配布したところ、内山労組の組合員も全員異議なくこれを受領しており、同年三月一六日に突如同労組が被告会社に対して「同月二一日、一〇月一〇日、一一月二三日の各振替出勤日には同労組組合員は出勤しない」などと申し入れてくるまで、右内山カレンダーに従って出勤し休んでいたこともあって、被告会社としてはこれに異議があるとは思っていなかったもので、少なくとも同労組組合員は右内山カレンダーに同意していたのであり、同労組の右申入れは同労組組合員の同意に反し、また、同労組には同労組組合員を代理して右申入れをなす権限はないから、結局、原告ら同労組幹部は、右内山カレンダーに同意している同労組組合員を煽動し、組合指令名下に右振替出勤日に一斉欠勤させたものというべきである。

3  懲戒解雇の正当性

<1> 就業規則の規定

平成二年当時、被告会社の就業規則には、次のとおりの定めがあった。

五条(職場規律)

従業員は、会社の指示に従い自己の職責を重んじ業務に精励しなければならない。

六条(服務規律)

従業員は、作業能率の向上と職場秩序の維持のため、次の事項に違反することなく誠実に職務に従事し、以て明朗快適な職場雰囲気の保持に努めなければならない。

一号 互の友愛の念を以て協同して作業に従事すること

二号 会社の経営秩序を遵守し、職制上定められた責任権限を明確に認識し、上長に忠実であると共に下僚の人格を尊重し、その職務を遂行すること

三四条(欠勤の届出)

一項 従業員が病気その他やむを得ない事由によって欠勤する場合は、所定の様式により、事前に、具体的事由及び欠勤見込日数を明記し、所属上長を経て会社の承認を受けなければならない。

二項 突発的事由その他やむを得ない事由により前項の手続きをとることができない場合は、とりあえず始業前三〇分迄に電話その他の手段をもって会社にその旨を連絡し、了解を求め、その後遅滞なく所定の手続きをしなければならない。

五九条(解雇)

従業員が次の一に該当するときは解雇する。

一号 懲戒解雇の決定があったとき

六七条(懲戒の種類)

二項 懲戒を分けて厳重注意、譴責、減給、出勤停止、役付剥奪及び懲戒解雇とし、次の各号により取扱う。但し、反則が軽微であるか、特に情状酌量の余地があるか、又は改悛の情が顕著であると認められるときは、懲戒を免じ訓戒に止めることがある。

六号 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時解雇する。

六八条(懲戒事由)

懲戒に該当する場合は、次の各号とする。

七号 業務上の怠慢又は故意により、会社の名誉信用を損したり会社に物的損害を与えた場合

一二号 職務上、上長の正当なる指示命令に従わず越権専断の行為をなす等職場の綱紀秩序を乱した場合

一六号 その他就業規則により遵守すべき事項に違反した場合

<2> 該当事由

前記1の原告らの行為は、就業規則五条、六条本文、一号、二号、三四条一項、二項に違反し、就業規則六八条七号、一二号、一六号の懲戒事由に該当する。

原告らの行為により、被告会社の岡山第一工場では三月二一日の在籍者九八名中二〇名が、一〇月一〇日の在籍者九六名中五名が、一一月二三日の在籍者九五名中五名が岡山第二工場では三月二一日の在籍者二一六名中八一名が、一〇月一〇日の在籍者二二一名中九八名が、一一月二三日の在籍者二二一名中九八名が、邑久工場では三月二一日の在籍者一〇〇名中一二名が、一〇月一〇日の在籍者一〇〇名中一一名が、一一月二三日の在籍者一〇〇名中一二名がそれぞれ一斉に欠勤し、これによる被告会社の業務、秩序の混乱、被害の程度等に加えて、原告らの組合幹部としての立場や今回の事態における役割等からすると、懲戒解雇は正当である。

四  抗弁に対する認否

抗弁1のうち、被告会社は、平成元年一二月下旬、平成二年度の年間の休日の割振りについて、別紙一(略)のとおりとする旨決定し、従業員に対し、その旨記載した内山カレンダーを配布して通知したこと、右カレンダーでは、祝祭休日である三月二一日水(春分の日)を同月二四日土に、五月三日木(憲法記念日)を同月一九日土に、同月四日金(国民の休日)を同月二六日に、一〇月一〇日水(体育の日)を同月一三日土に、一一月二三日金(勤労感謝の日)を同月二四日土にそれぞれ振替変更する旨記載されていたこと、原告向井は内山労組の執行委員長、原告太田は同労組書記長であること、原告らは、被告会社通告の右内山カレンダーによる休日振替変更のうち、三月二一日水を同月二四日土に、一〇月一〇日水を同月一三日土に、一一月二三日金を同月二四日土にそれぞれ振替変更することには応じられないと主張したことは認めるが、その余は争う。

抗弁2<1>は争う。

被告会社と内山労組との間には労働協約が存在し(現在では、被告会社は労働協約の法的効力を否認するが、昭和六三年一〇月までは有効なものとしてきた)、休日に関しては次のとおり規定がある。

五〇条(休日)

一項 休日は下記の通りとし、その日数は一〇三日とする。

一号 日曜日

二号 特定休日 抗弁2<1>a就業規則二〇条一項二号と同様

三号 その他事業所単位で協定した日

二項 前項の休日のうち国民の祝日及び夏期休暇が日曜日と重なったときは翌日を休日とする。

三項 電力事情又は業務の都合で己(ママ)むを得ない場合には組合と協議して定める。

右の規定からすれば、休日の振替は、労使の合意によるべきものであり、被告会社が一方的に決定することができるものではない。

昭和四九年以来の内山カレンダーも、右労働協約に従い、労使間の合意によって定められてきたものであり、被告会社が一方的に決定した前例はなく、被告会社主張のような労使慣行も存在しなかった。

抗弁2<2>aは認めるが、同2<2>bは争う。

内山カレンダーは、前の年に予め翌年一年間の休日の振替変更を行うものであり、就業規則二一条一項の「臨時に必要がある場合」に該当しない。

抗弁2<3>は争う。

内山労組の組合員が平成二年の内山カレンダーの配布を受け、これを受領していたとしても、同労組は明確に文書により被告会社主張の休日振替に異議を唱えており、右受領という単純な事実行為に休日振替という重要な労働条件変更の同意の効力を擬制することができるわけのものでもない。

抗弁3<1>は認めるが、同3<2>は争う。

被告会社による休日振替は法的根拠を欠いており、内山労組の組合員が労働協約及び就業規則により特定されている休日に休んで労務を提供しなかったことは何ら違法ではなく、このことを指導した原告らに何らの違法もない。

五  再抗弁(不当労働行為)

被告会社は、内山労組を嫌悪し、その消滅を企図し、分裂を誘導し、差別を行い、同労組幹部らに対して懲戒処分を乱発しており、本件の原告らに対する懲戒解雇もその一つであり、右は不当労働行為である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁は争う。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  雇用

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  賃金

請求原因2は当事者間に争いがない。

三  懲戒解雇通知

請求原因3は当事者間に争いがない。

四  係争

請求原因4は当事者間に争いがない。

五  欠勤及びその煽動

抗弁1のうち、被告会社は、平成元年一二月下旬、平成二年度の年間の休日の割振りについて、別紙一のとおりとする旨決定し、従業員に対し、その旨記載した内山カレンダーを配布して通知したこと、右カレンダーでは、祝祭休日である三月二一日水(春分の日)を同月二四日土に、五月三日木(憲法記念日)を同月一九日土に、同月四日金(国民の休日)を同月二六日に、一〇月一〇日水(体育の日)を同月一三日土に、一一月二三日金(勤労感謝の日)を同月二四日土にそれぞれ振替変更する旨記載されていたこと、原告向井は内山労組の執行委員長、原告太田は同労組書記長であること、原告らは、被告会社通告の右内山カレンダーによる休日振替変更のうち、三月二一日水を同月二四日土に、一〇月一〇日水を同月一三日土に、一一月二三日金を同月二四日土にそれぞれ振替変更することには応じられないと主張したことは、当事者間に争いがない。

(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告会社は、平成元年一二月一六日、内山工業新労働組合(以下「新労組」という)、内山労組及び内山コルク労働組合(以下「コルク労組」という)に対し、平成二年の年間の休日の割振りについて、別紙二(略)のとおりとする旨の内山カレンダー案を提示した。

新労組及びコルク労組は、平成元年一二月一九日、被告会社に対し、会社案では休日となっている平成二年一二月二九日を出勤日と改め、翌平成三年一月五日を休日としてはどうかとの提案をし、その他については同意する旨返答した。

内山労組は、被告会社の提案を受けて、組合員の意見聴取を行い、その集約結果を踏まえて、祝祭休日のうち三月二一日水(春分の日)、一〇月一〇日水(体育の日)、一一月二三日金(勤労感謝の日)の三祝祭日の振替には反対である旨の組合見解をまとめ、平成元年一二月一九日、被告会社に対し、その旨に加えて、祝祭日の振替は労使の合意決定事項であり、右三祝祭日について労使間で振替の合意に達しない場合、内山労組は、就業規則に従い、これを暦日通り休日として取り扱う考えである旨の申入れをした。

被告会社は、同月二〇日、三労組に対し、新労組及びコルク労組の提案を受け入れ、内山労組の申入れは受け入れられないとして、別紙一のとおりの見直し案を提示した。

新労組及びコルク労組は、被告会社の見直し案に応諾した。

内山労組は、同月二一日、被告会社に対し、見直し案に応じられない旨、就業規則上被告会社には振替権限はない旨、前記三祝祭日については振替に応じられない旨、見直し案について更に再考を求める旨等を申し入れた。

被告会社は、同月二三日、内山労組に対し、右申入れを拒否し、就業規則二〇条、二一条の規定により前記見直し案のとおり決定した旨通告した。

内山労組は、同月二六日、被告会社に対し、右通告には承服できないとして、厳重に抗議するとともに、団体交渉を申し入れるつもりである旨通告した。

被告会社は、同日、内山労組に対し、休日の振替が組合との合意決定事項とは考えていないとして、前記見直し案を変更する意思のない旨回答した。

被告会社は、同月二八日、従業員らに対し、前記見直し案と同じ別紙一のとおりの記載のある平成二年の内山カレンダーを配布した。

この間、内山労組は、組合員らに対し、組合ニュースや職場毎等の集会により、前記三祝祭日の振替に関する被告会社との交渉経過を報告していた。

内山労組は、平成二年一月一八日開催の組合臨時大会の場で、被告会社の休日振替に対する対応について報告し、その後も、職場討議、中央委員会等における意見集約、検討等を経て、同年二月二〇日には奥津亘弁護士を講師に迎えて休日振替について全体学習会を開催するなどした後、同年三月一四日の組合臨時大会においては、満場一致で被告会社の休日振替のうち当面の三月二一日(春分の日)の振替については拒否する旨の決議をした。

内山労組は、同年三月一六日、被告会社に対し、従前通告のとおり一方的な祝祭休日の振替には応じられない旨再通告するとともに、三月二一日の春分の日については従前の労働協約及び就業規則の定めのとおり休日として休業する旨等を通告した。

この通告に対し、被告会社は、同月一六日、内山労組に対し、休日の決定は労使の合意決定事項ではない旨、同労組が通告内容のような愚行を犯さないよう警告するとともに、万一警告を無視してこれを強行すれば、断固たる処置を行う予定である旨等を返答した。

内山労組は、同月一九日、被告会社に対し、右返答に反論するとともに、同労組組合員は同月二一日に暦日のとおり祝祭日として休業し、被告会社指定の振替日である同月二四日には出勤する旨通告した。

同月二一日、被告会社は出勤日として扱う反面、内山労組組合員は休日として出勤しなかった。

同月二四日、内山労組組合員は出勤日として職場に赴いたが、被告会社は休日であるとして、その勤務を受け付けなかった。

同年一〇月一〇日の体育の日及び同年一一月二三日の勤労感謝の日についても、ほぼ同様の経過で内山労組の組合大会による意思決定、被告会社に対する申入れ、これに対する被告会社の同労組に対する警告等を経て、両祝祭日とも、被告会社は出勤日として扱う反面、内山労組組合員は休日として出勤せず、両振替日とも、内山労組組合員は出勤日として職場に赴いたが、被告会社は休日であるとして、その勤務を受け付けなかった。

このため、被告会社の岡山第一工場では三月二一日の在籍者九八名中二〇名が、一〇月一〇日の在籍者九六名中五名が、一一月二三日の在籍者九五名中五名が岡山第二工場では三月二一日の在籍者二一六名中八一名が、一〇月一〇日の在籍者二二一名中九八名が、一一月二三日の在籍者二二一名中九八名が、邑久工場では三月二一日の在籍者一〇〇名中一二名が、一〇月一〇日の在籍者一〇〇名中一一名が、一一月二三日の在籍者一〇〇名中一二名がそれぞれ一斉に欠勤することとなった。

以上の経過で、同年三月二一日、同年一〇月一〇日、同年一一月二三日の三祝祭日とも双方譲歩せず、被告会社は、内山労組組合員の欠勤を前提に勤務態勢を組み替えるなどの措置をとらなかったため、その欠勤によって職場は混乱し、業務運営が著しく阻害され、生産効率の低下、工程の分断等が生じた。

以上のとおり認められる。

六  休日振替の正当性

1  労使慣行

被告は、抗弁2<1>のとおり労使慣行の存在を主張し、(証拠・人証略)中にはこれに沿う部分があるが、次に説示するとおり採用できない。

すなわち、(証拠・人証略)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告会社では、昭和四九年から週休二日制の部分導入の一環として、一日の労働時間を一〇分増やして年間の休日を二六日増やすことで、内山労組と合意し、増加した休日二六日を事業所毎に割り振るについて年間のカレンダーを作成するようになり、以後内山カレンダーとして定着した。

内山カレンダーの作成については、当初より、被告会社が休日の割振りについて会社案を作成して提案し、内山労組がこれに意見を述べ、双方協議の上合意する方式がとられ、また、その作成の際には、休日の割振りに加えて、労使双方の都合から週途中の祝祭休日を週末に振り替えることも協議されるようになり、この点も併せて合意される取扱いとなった。もっとも、この祝祭日の振替は従業員の評判が芳しくなく、極力控えられる取扱いがなされるのが例であった。

被告会社と内山労組の間では、昭和三〇年代以降労働協約が締結され改訂を重ねてきており、右内山カレンダーが作成されるようになってからは、休日に関し、抗弁2<1>に対する認否の項に記載したとおりの条項(第五〇条)が設けられ(もっとも、右労働協約は、昭和六三年の労使紛争の際、被告会社が協約書に署名捺印がないから無効である旨主張し始め、労使間の仮処分申請事件を審理した当時の裁判所も同様な判断を示すに至る経緯があるが)、以後昭和六二年頃まで、被告会社と内山労組は、内山カレンダーについては、労働協約第五〇条一項三号に基づいて合意の上協定するとの共通の認識に立ち、協定成立の際には、その旨明示し被告会社の社長及び内山労組の執行委員長が記名押印した協定書を作成してきた。なお、労働協約五〇条一項三号は、事業所単位で協定した休日に関する規定であったが、内山カレンダー作成の際に併せて決定される同条項二号の特定休日(祝祭日等)の振替についても(特定休日の振替については労働協約上に規定はない)、労使間の合意事項として扱うことに双方異論はなく、経過してきた。

ところが、昭和六三年になって、労使紛争の最中に内山労組が分裂し、別に岡山地区に新労組及びコルク労組並びに大阪地区に内山工業大阪工場労働組合がそれぞれ結成され、平成元年分以降の内山カレンダーについては、被告会社はそれぞれの組合に休日の割振り及び祝祭休日の振替を提案して協議するという形をとることとなった。

以上のとおり認められ、(証拠・人証略)中、右認定に反する部分は採用できない。

右認定事実によれば、内山カレンダーは、昭和六三年までは、被告会社と内山労組が締結し有効として扱っていた労働協約条項に従い、労使双方の協定合意により作成するものであるとの共通の認識の下に、特定休日(祝祭日等)の振替についても、他の休日の割振りと同様、労使双方の合意によって決定されてきたものであることは明らかである。

右の事実関係からすると、祝祭休日の振替については被告会社と内山労組の合意で定める旨の労使慣行があったと認定することはできても、原告主張のような労使慣行があったとは到底認められない。

2  就業規則

<1>  規定

抗弁2<2>aは当事者間に争いがない。

<2>  該当事由

休日振替に関する就業規則二一条一項には、「会社は、業務の都合その他やむを得ない事由によって臨時に必要がある場合は、前条の休日を他の日に振替変更することがある」と規定されているから、会社が休日を振替変更するには、「業務の都合」又は「その他やむを得ない事由」があり、且つ「臨時に必要がある場合」であることが要件とされることは明らかであるところ、原告が抗弁2<2>bにおいて主張するように「業務の都合」があったとしても、次に説示するとおり「臨時に必要がある場合」であったとは認められない。

すなわち、前記のとおり、内山カレンダーにおける休日の割振り並びに振替変更は、前の年に翌年一年分をすべて予め決定してしまうものであって、いわば恒常的なものであり、それ自体「臨時の必要」があって定める性質のものとはいえない上に、これまでの認定事実からすると、平成二年の内山カレンダーをめぐる被告会社と内山労組の確執は、被告会社が労働組合分裂後とはいえ、従来の労使慣行を破って右内山カレンダー作成を労使の合意事項ではなく、会社の専権事項である旨主張し始めたことに端を発しており、その点に異議を唱えた内山労組の抵抗を無視し、両者相譲らない情勢の中で、被告会社は、そのままでは業務に重大な支障が生じることを予め認識しながら、敢えて何らの対処措置をとることもなく、問題の祝祭日を経過するに任せていたものであるから、ある意味でそれは被告会社の予定の行動というべきであり、到底就業規則の定めた「臨時の必要」に該当するものとはいえない。

3  従業員の同意

原告は、抗弁2<3>のとおり主張し、(証拠・人証略)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告会社は、平成元年一二月二八日、従業員らに対し、平成二年の内山カレンダーを配布し、内山労組の組合員もこれを受領したこと、三月二一日、一〇月一〇日、一一月二三日の三祝祭日の振替変更以外については、同労組組合員は右内山カレンダーのとおり休日をとったことが認められるけれども、前記五認定の平成二年の内山カレンダーをめぐる被告会社と内山労組の確執の経緯からすると、同労組組合員は右三祝祭日の振替変更には反対の意思を有していたことが明らかであり、また、配布されたカレンダーの受領という事実上の行為が直ちに休日振替の同意の効力を生じたとすべき法的根拠も見あたらないところであり、右三祝祭日について同労組組合員が振替変更に同意したとする被告の主張は理由がない。

七  懲戒解雇の正当性

1  就業規則の規定

抗弁3<1>は当事者間に争いがない。

2  該当事由

被告は、抗弁3<2>のとおり主張するが、前記六のとおり被告会社の休日振替の正当性は認められないところであり、他に原告らについて懲戒解雇を相当とするような就業規則該当事由を認めるに足りる証拠はない。

八  結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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